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8月30日
風が強いせいかオフィスがミシミシと音を立てている。
ついに台風が来ちゃったよ・・とは思いつつ気持ちは目の前に迫ってきた締め切りに向いていた。
「ついに締め切りが来ちゃったか・・」
サイドテーブルにあるミネラルウォーターをごくりと飲む。
ん?味が変・・
しまったぁぁぁ〜〜、もう何日もそこに転がっていたやつだった・・
先週から冷蔵庫にも入れず面倒だったのでサイドテーブルに置きっぱなしにしていたボトルだった。そのほかにPEPSIとユンケル黄帝(ゴールド)などもそこらじゅうに転がっている。
時計は午後10時を回ったところで、これから最後の追い込みだというのに力が抜けてきた。
ちょうどそのときにT女史から電話が入った。
疲労蓄積しているスタッフに対するねぎらいの電話だった。で、ついでに僕の方にも電話が回ってきた。
「あの・・・古い水飲んじゃったんだけど、大丈夫かな?」
「いつの?え〜〜!!そんな水飲んだらだめよ。水なんてボトルいったん開けたらすぐに飲まないと菌が発生してくるんだからね。すぐに正露丸飲んでおきなさい!」
まるで子供のように叱られてしまった。
「正露丸をまた古い水で飲んじゃったりしてね、ははは」
冗談のつもりでI平にそう言って、湯冷ましで3錠一気に飲み込んだ。
相変わらずこれは臭い。
ええ〜っと、ん?期限がもう過ぎてるよ、これ・・・・・・

8月27日
夜中に外に置いてあるベンディングマシーンからアミノ式を取り出し、それを飲みながら少しばかり涼しくなった空気を感じる。
ほんのひと時の気分転換である。
エアコンが切れたオフィスの中に比べると外の方がかなり心地よい。
そろそろ夏も終わりか、今年は休みも取らずによく仕事したぜ・・・と一瞬思ったのだが、台風が近づいてきていることにすぐに気がついた。

パソコンの画面には、30日には北海道を除く日本のほとんどが台風域になるような図になっている。
台風も近づいてきているがそれと同時に締め切りも近づいてきている。
「いや〜、台風のおかげでデーターがぜ〜〜んぶ飛んじゃいましてね・・・」
「バックアップしているっていうのが常識でしょ。」
「パソコンが全部水に浸かっちゃいましてね・・・」
「おたく5階でしょ?そんなところまで水に浸かるっていうのは、デイ・アフター・トモロウ並みの津波でも来たんですかねぇ?」
「そうなんですよねぇ、いやはや映画さながらでね・・ははは・・」
では通じないだろうな、やっぱり。

8月26日(木)
ん?今日は何曜日だっけ・・・。

国際会館の近くにある「すえひろ庵」という蕎麦屋でI平と夕食を摂っている時にふとそう思った。
「今日は水曜だったよな。」
「そうですよぉ〜、明日は木曜です。」
「そうだよな、今日が木曜だったら大変だもんね」
「そうですよぉ、脅かさないでくださいよ〜」
ぶっ掛け冷やしそばの大盛りを食べながら、少し安堵した。

さっき今日締め切りの物件をやっと終わらせ、この店でホッとひと息落ち着いたところである。
月末までにあと少なくとも2件はヤマ場が残っている。つかの間の休憩といったところだ。
「でも木曜かも・・・」
「んな〜ことはありませんよ、I平よ。だって今日が木曜ってぇことは、明日は金曜でもう週末じゃん・・・そんなに早く時間は過ぎるもんじゃあないぜ・・ズルル・・・」
ここのぶっ掛け蕎麦はとても美味しい。
「・・でも、木曜か?」どこかでそれを確認しようと、僕は携帯の画面の日付を確認した。
8月26日 thu・・・チューズデイ・・とある。
「な、水曜だろ。木曜はサーズデイ、だもんね、よかった・・・」
「そうですよね、ズルル・・・」
ちょっと待てよ・・・サーズデイの綴りは確かThursday・・・まさかね。
そばにおいてあった新聞の日付を確かめる。
2004年8月26日(木)とある。
「これ「木」とないってないか?」
「目が疲れてるんじゃないっすかぁ・・・ね、ほら、ちゃんと「水」ってなってるじゃあないですか」
「そうか、こういう小さい字は最近見にくいからさ・・ははは・・・ズルル」
関西ではこういう風に食べ終わる前にちゃんと「蕎麦湯」を出してくれるところは少ないんだよね。これをこうして最後に注いで身体を温めてからごちそうさま・・これが粋ってもんだよな、うん。

「今日はひょっとして木曜じゃあないですかぁぁぁ?」
「だって、この新聞だって「水」って・・・ん?これって「木」っていう字?」
ねぇ、今日は水曜だよね。店の主人に聞いてみる。
「木曜です」
「すいようにまけてもらえませんかぁぁ〜〜・・・」

この一言で今日はまたこれからオフィスでの「夜中めいっぱいコース」が決まってしまった。

8月23日
いろんな物件の締め切りがまとめて近づいてくる。
まるでアルマゲドンに出てくるブルース・ウィリスのような心境である。

「床が全部たわんじゃったって話題が日経アーキテクチャーに出てたけど、あれって構造の責任になるのかしらね〜」昼食後にふとT女史がそう言った。
「なに、それ?」
月曜の午前中はあっという間に過ぎていく。今日送られてきた日経アーキテクチャーという建築雑誌にそう書いてあったらしいのだが、僕はまだ読んでいなかった。
「マンションの床が50mmたわんで、10億ほどの賠償請求が上がってるらしいよ。」
あのね〜、そういうのってまるでひとごとのようにおっしゃってますけどね、あなた・・
もし現場でそんな風になっちゃったらうちはひとたまりもないんですけどぉ〜・・・・・
そう思いながら件の雑誌に目を通した。

内容としてはどうやらやはり構造に問題があるんだろうけど、そこに書かれている文章並びに訴訟内容として素人判断の部分が多いように思えた。
決定的な問題は他にあるように思えるし、床に対する考察が甘かったのかもしれないが、プロが設計したものでそんなに撓むものなのだろうか。
これは他人事ではないわけで、まあT女史はまさかそういう間違いが僕にはないだろうと、信用した上でそういう言葉が出たのかもしれないが、こういった事故はいつ起きるかは誰にもわからない、のですよ。

「桁間違ったりすれば当然鉄骨などは倒れちゃうからね。気をつけねば」
と、ヨン様似のF君を脅かしたばかりなのだが、ここいらで僕自身身を引き締めるべきだと、そういう警告をアーキテクチャーはしてくれているのだと、そう思いつつもうひと頑張りをしようと、午前1時を回ったところで思い直した。
それにしても眠い。マラソンを朝まで見ていたのがまずかったかも・・・

8月21日
ここんところめっぽう忙しく、仕事を終え自宅へたどり着くとたいてい午前1時か2時くらいになってしまう。
締め切りものが連続しているせいである。
ただ、最近は帰ってからオリンピックをやっているのでこれはこれで気分転換にはなっている。いくら遅くなってもついつい見てしまう。
ただ、放映されている競技がだいたい決まっていることに少々不満がある。
柔道に水泳にソフトボールあたりか。
NHKとケーブルテレビでBS放送を、そしてたまに民放をリモコンでポチポチやりながら見ているのだが、どこでも時間差こそあれ同じものを流し各局で騒ぎまくっている。
「感激ですよ、日本人に生まれてよかったと思います。」
わざわざアテネまで行ってその程度の感想しかいえないような人たちが目立っているのは目障りで仕方がない。
各チャンネルで違ったものを放映すればいいじゃん、なんて思うんだけど、それじゃあ採算が取れないのかしらね?
NHKはまあ美味しいところを取って柔道に水泳に陸上を放映すると。
民放は例えば、その代わりにハンマー投げを独占放送したり、マラソンはこちらがもらいましょう、とかね。NHKに多少お金を払ってもそれだったら視聴率は上がるでしょうに。
地方ローカル局の場合はせめて重量挙げチャンネルとかさ、テニスチャンネルにフェンシングコーナーなんてことやれば、たまにはこういうのもいいね、なんて見る人はいると思う。

同じことを各局で放映するというのは、真夜中のおふざけ番組と同じレベルですぐに飽きてしまうと、僕は思いますがね。

視聴率を上げようとするならば、つまんないタレント出したりするよりも、もう少しばかりの工夫が必要じゃないだろうか。
そういうところをもう少し面白くしてくれもらえれば、テレビをつけてすぐにソファで眠ってしまわずに、ウィスキーにスモークチーズでも食べながらちゃんと見るんだけどね。

8月18日
外に出ると湿度の高い空気が全身にまとわりついてくる。
微熱のあるオッサンに抱きつかれたまま歩いているような体の重ささえ感じてしまう。
室外機から吐き出される熱風は、まるでオッサンの熱い息だ・・・。
それを考えれば、オフィスの中は冷気がきいていて一息はつく。つくものの、午後10時を過ぎればぱったりとエアコンは切れてしまうのである。
今はなよなよとした空気を送ってくれる小さな扇風機が僕の隣で働いてくれてはいるが、頭がぼう〜っとしてきた。時計を見ると午前1時を過ぎてしまっている。
こんなことをしていると、本当に微熱のあるオッサンになってしまいそうなので仕事は諦めて帰ることにしようと思う。

8月17日
「ね、言ったとおりでしょ!!金が一個なんて笑わしちゃあいけませんよ、そんな捨てたもんじゃあないわよ、日本わぁ〜」
なんて、きっとオフィスに入ってくるや、大声でT女史は言うと、思う。
今日はまだ彼女は夏休みで来ていないのだが、明日はきっとそう言って入ってくるに違いない。
「5個は取れるんじゃない」
と彼女は言っていたので、なおさら得意げな表情が推測できる。
そういえば「体操」という競技を忘れていた。
バドミントンもあるし、卓球もまだまだわからない・・・・まあ、勝負に負けたことだし、これからは気楽に放送が見れるわい、と素直に負けを認めてしまったわけです、ハイ。

それにしてもやっぱり民放の放送形態はあまりにひどい、とわたしは思うんだけど、いかがなもんでしょ?
ソフトボールをやっている最中に松岡某という男の顔がやにわに現れ、ゲームを中断してしまう。その後には女子バレーが映し出されているので、お!ちょうどいいじゃん、などと思った瞬間にまた松岡のぎこちない表情が映し出される・・
どうなってんのよ〜これは、ちょっと、あなた!
まあ、その程度だとは思ってはいたんだけどちょっとひどすぎるよね〜。
だってケーブルテレビでは柔道ばっかりやってんだもの、たまには他の種目を見ないと、と思っても、やってるのは民放だけだものね・・。

「え?金取ったのヤワラちゃんだけじゃないの?・・え?そうなの?・・だってテレビ松岡ばかり映ってて、金の話題なんかやってなかったよ。体操?まだこれからでしょ? 水泳もまだ予選じゃない。金は、1個でしょ、今のところ。」
「え?そうだったかな?」
「きっと暑さで夢でも見てるんじゃないのかな・・うん、このところ暑かったもんね、うんうん」
「そういえば、そっか・・・・」
とならないかしら・・・・・・。

8月15日
冷蔵庫の中にビールがないことに気がついて外に出る。
駐車場へ行くと、車がない・・・・
しばらく頭を冷静にしながら昨日のことを整理していく。
昨日は確か同窓会で4次会くらいまで行っていた。そして、ベロベロに酔った上海から来ていた友人を見送り、・・そうだ、その後はそこからタクシーで帰ってきたんだ。
やっと経過を理解し、ではと徒歩で坂道を下り始めた。
自宅から一番近い酒類を扱っているコンビニは坂を下りて約10分を要する。
ふと空を見上げると空がいつの間にか高くなっている。
そういえば今日は幾分涼しい風が吹いている。真夏日も一段落というところかもしれない。
高い空を眺めながら昨日のことを思い出だしていた。

「お前は確かヨッコク(横浜国立大のこと)やったな〜」
「俺は違うよ。それは**じゃあないか」
30年ほどの年月が経った同窓会というのは、もうほとんど誰が誰だか判明しないような状態になっている。特に僕が受け付けている出席者のクラスは9組と10組で全員、男だ。
女性が一人でもいるその場は華やかになるものだが、その光景は僕のはるか向こうであり、僕が座っている場所は中小企業のオヤジの集まりであり、向こうとはまた違った団体の受付のような気がしていた。
名前と顔が一致しないまま受付を行っている際にそういう風に唐突に言われたのである。
言われても相手が誰だったかしばらくは思い出せない。仕方がないことではある。

1次会では、今度は剣道8段に挑戦されるという盗賊の頭(8月14日分参照)に挨拶をし、受験の際にお世話になりながらろくに挨拶もしないまま東京へ行ってしまい、ずっと不義理をしていた数学の先生に30年ぶりに挨拶とお詫びをした。
ろくでもない生徒だったのだが、もう時効ということでお許しを頂いた・・・というよりは忘れていたようではある。

「最近はどう?」
2次会で隣に座った歯科医をやっている男に聞いた。
「バンバン抜きまくってるよ、ワハハハ」
「そちらは?」その隣の男に聞く。
「バンバン切りまくってるよ」
彼は外科医をやっているとのことだ。 僕が座った卓は唯一男ばかりの席だった。中華料理を食いながら切ったはったの話で盛り上がる、というよりはどうしても男ばかりだとそういう無味乾燥な話になってしまう。
卓の向こうは小児科医の男が座っているし、どうも色気のある話は出てこない。
或いは、で出てくる話は男の精力の話程度のものだ。
最初はしばらくぶりということで、**君とか遠慮しながら話をしているわけだが、そのうちにその当時の記憶が鮮明に蘇ってきてオッサンは高校生になってしまう。

「おまえ、おがわやないか・・・いや〜〜、ひさしぶりぃ〜〜」
昨日上海から神戸に着いたという、バスケットボール部のNはすでに泥酔し始めている。
声がでかい。
卓のあちこちで名刺の交換が始まっている。まあ、ぼちぼちかな・・と思っているうちに3次会の予定が入り始める。
で、いつの間にか僕の後ろに20人ほどの塊ができており、
「おまえ、おがわか?いや〜〜ひさしぶり〜」
東門街の途中でNは抱きついてくる。
その20人ほどをハンター坂の居酒屋へ放り込んで、適当に帰るかなどと考えているところへ、
「おお、おがわちゃ〜〜ん」
Nが僕の手を強く握り締めて、ぐりぐりやってくる。
「上海よいとこよ、是非来い!」

で、結局次の店でも
「おがわ〜〜、上海へ・・・」
行きますよ、え〜い、行きますとも、僕だって上海で美味しいもの食べたいもんね。
ただこの酔い方だと明日になって酔いが覚めたらおそらく僕のことは忘れてるだろうな、
とそう思いながら幾分酔ってはいたものの彼が無事ホテルまで戻れるように見守ってあげた、とそういうことである。

コンビニで買った、冷えたキリンの小瓶を飲みながら坂をゆっくりと上り始める。
その高くなった空を眺めていると、30年前の高校生だった頃に見上げたときの空を思い出した。

8月14日
現在午後1時を少し回ったところで、僕はオフィスにいる。
午後2時前にここを出て、2,3分西へ歩いたところにある「東急イン」へ行かねばならない。
用件は高校の第1回合同同窓会へ出席するためである。
出席というよりいつの間にかクラスの幹事になっていたのでその準備もあり早めに行くわけだが・・・・。
え〜〜っと、最終的にはっと・・やっぱり7人か。
出席するメンバーを見れば只者ではないやつらばかりである。
今でこそ阪急神戸線沿線の「春日野道駅」の駅前で産婦人科を営んでいるU。
彼は、京都で浪人をしている時、その冬場の寒さゆえに普段は釣り用の防寒具に身を固め、そして目出し帽をかぶり、自転車で外を徘徊していることが多かった。その格好に慣れてしまい、銀行にもその格好で入ってしまったおかげで警備員が飛んできてその場で押さえ込まれてしまった、というエピソードを持っている。
京都大学卒業後に親の会社を継いで神戸で手広く商売をしているY。
高校時代は成績は抜群によかった。
修学旅行のとき、女風呂を覗きに行こうと男風呂の窓から外へ出、腰にタオルを巻いたまま2階の梁の縁を伝って目的地までやってきたのだが、中からの悲鳴を受け仰向けに下へ落ち、そのまま先生に連れて行かれたという、誰にもいえないエピソードを持っている。
その他同様な男たちばかり7人が集まることになっている。

少々年齢を重ねたとはいえ、いまだに目つきが鋭いと思われる恩師と、その7人。
盗賊の頭とその一味、という表現が当てはまりそうな気がしてきた。
まあ、僕はといえば・・・髭もたくわえていることだし、まあ堅気の仕事をしているようには見えないだろうしね。

「いいか、ぬかるんじゃあねえぞ」
「へい、わかりやした」
そういう会話がなされそうな雰囲気になるのではないかと、今からわくわくしている。

8月13日
オフィスが入っているビルの1階にはBMWとミニ・クーパーのショールームが入っている。いつもはそこにやってくるお客さんの吸う煙草の煙のにおいと商談の声、そしてキンキンに冷えたエアコン、を通過してエレベーターに乗るという経過となるわけだが、ここ数日はビルに入ってもエアコンがほとんどきいていないし、お客さんの姿は見えない、ミニのコーナーは電気が消えて真っ暗になっている。
「まあ、このご時世だから、いつ店がなくなってもおかしくはないよな・・」
独り言をぶつぶつ言いながらエレベーターに乗った途端に気がついた。
夏休みだ。
気がつかないうちに世間は夏休みに入っていた、というわけだ。
そういえば、最近よくT女史が
「いろんな人と会うんだよね〜」
と言っていたが、そうか・・・お盆が近づいていたのか・・・。
心なしか電話の数が減っていたのもそれだったんだと今更ながら気がついて、ならばオリンピックの開会式は、と・・今日の夜だ。
向こうでデスクにかじりついて仕事をしているY女子をそこから引っぺがして帰るとしましょう。
と言っても、また明日はオフィスに出るんだけどね。

8月10日
週末にはアテネオリンピックが始まる。
今回はさして期待するものがないので、まあ女子バレーボールやマラソンなどを民放ではなく、極力ケーブルテレビでの衛星放送をのんびり見ようと思っている。
民放は余計なゲストや司会者がうるさくってどれがメインなのかわからないだろうと今までの経験上予測できているので、敢えて見ない、と思う。

余計なことを言わなければよかった。
「オリンピックは金メダルはせいぜい1個なんじゃないの。」
ランチ時についそう言ってしまった。
「そんなことはないと思うわ、私は5個は取れると思うけどね。賭ける?」
1個と5個・・・寂しい数ではあるけれど、T女史の挑戦にのってしまった。
せいぜい柔道くらいだろうと思っていたのだが、思わぬ伏兵があった。
カヌーや、トライアスロン、乗馬、トランポリン等々あまり目立たない競技もそういえばあった。
トライアスロンなどはその手のマニアックな日本人が出てきそうな気がするし、カヌーの中でもカヤックなんていう一人乗りの競技などは日本人になんとなく向いてそうな気もする。テコンドーなんかもそういえばあったし・・・。
負けた数だけランチをおごる、そういう賭けなので、ひょっとしたら1週間ぶっ続けでT女史におごり続けることになってしまうかもしれない。
結果をお楽しみに、トホホ・・・

8月6日
「いや〜、小川さんお気の毒、歯が折れてるよ。」
レントゲンの写真を見ながら歯科医の先生がそう言った。
「来週はお盆で休みだから今日抜いとくね、いいね。」有無を言わさずに2本目の麻酔を歯茎に打たれた。
本当は、
「最近寝不足なんでまたにしてもらえるでしょうか」とか、
「今日は胃の調子が悪いんで休み明けとか・・・」
そう言い訳をして何とかこの場を抜け出したかったのだが、先生はもうペンチのようなものを持ち出してそれを研ぎ始めた。
「痛かったら言ってね。」
歯を抜く状況で痛いというのは、尋常な痛さではないのか?
そんな痛みに耐え抜くことが果たしてできるのか・・・などを考えているうちにグリリリ・・とそのペンチのようなもので抜かれて、おしまい。
「お疲れ。見事に割れてるね、これ。」
ちょうど顔の横にトレーが位置しており、そこには縦に真っ二つに割れた歯片が置かれていた。

数日前から少し痛み出してはいたのだが、おそらくここんところのハードな仕事を耐え抜いてきたその疲れが肩こりになって現れ、そしてそれが歯の痛みとして出てきたのではないか、と素人なりに考えていたのだが、間違っていた。
そりゃあ折れてれば痛いわけだ。

「傷口がふさがるまで約1時間程度、綿を噛んどいてね。」
言いつけどおり綿を噛みながら、電話を3本、薬局で話し好きな薬剤師さんに質問され、その度に口の片方だけで喋ろうとして失敗する。
「あ、歯を抜いてきたんですか?」
「抜きましたよ、ハイ」
歯を食いしばっているときは、唇を閉じるような発音をするとき、例えば「ま行」を発する場合は支障が出ることがそのときにわかった。
オフィスに戻ってきたとき、防災センターの人とばったり会って挨拶を・・
「このあいだはどうもすいませんでしたね〜、クーラーきかなくって大変だったでしょう」
どうしてこういうときに限って喋らされるのよ・・・・。
週末はきっちりと休むことにします。

8月5日
昼間は電話や打ち合わせ、チェックに事務関係の用事に、押し売りのお断り等々とても仕事ができる環境ではなくなっている。
自然に自分の仕事は夜夕食が終わってから、ということになってしまう。
自分の好きな曲をメディアプレイヤーに詰め込んでそれをヘッドフォンで聞き流しながら猛烈に集中をする、集中をしているからこそ周囲にはまったく気がつかないわけだ。
だから電話が入った場合はスタッフは困ってしまう。
だっていくら呼べど叫べど僕はまったく気がつかないわけだから、どういう風にすればいいのか・・・わかってますよ、僕が我儘(ワガママ)だってことは。
だけど、そうしないと仕事が終わらないわけで、終わらなければ夜な夜な督促の電話が入るわけだから、そうしないためにも夜は頑張っておるわけです、ハイ。

Y女史が夜電話を受け取った。
で、当然あちらの方に座ってフンフンやっているオヤジにそれを伝えたい、伝えたいがきっと小さい声じゃあ絶対にわかってもらえない。
どうしたかというと、彼女にしては珍しく、大きな身振り手振りをしながら、それでもオヤジは気がつかないので更にステップを踏み始めた。
控えめな彼女にとって、ヘッドフォンをして周囲に気がつかない、まるで痴呆症を患ったようなオヤジ相手の前でステップを踏むのはさぞかし勇気のいることだったと思う。

「あの頃のまま」というブレッド&バターというデュオグループのバラード調の曲を聴きながら気を静めながらとってもややっこしい仕事をしていたのだが、
「ン?ソバニナニカキテイルゾ、オボンニハマダハヤインジャナイカ・・・」
一瞬そういう錯覚をしながら横を見た途端にそこには小躍りをしている、そういう雰囲気のY女史がいた。
「ウォ〜〜〜ッ!!・・・・びっくりするじゃあね〜〜かぁぁ〜〜・・・」

集中力が一気に下がってしまう瞬間でもある。

8月4日
台湾で新幹線の事業に参加している友人のT氏とは、いつも電話でというわけにもいかないという理由で、チャットというもので連絡をし合っている。
これはどんなに距離が離れていてもリアルタイムで話ができるのでなかなか重宝している。

ランチタイムを利用してチャットで彼と話をしているときにT女史が、
「何やってるの?」
「Tさんと話ししてるんだ。連絡したいこともあってね。ちょっと話をしてみる?」
「やるやる、Tさん元気にしてるのかな?」と言いながらキーボードを打つ。
「お久しぶりです」・・と打つところを
「お被災振りです」
と打って彼に送った。
shiがhiになったのでそう変換されてしまったわけだ。
彼はおそらく以前の地震に対しての気遣いだと思ったのだろう、
「もうすっかり大丈夫ですわ」
と返ってきた。
しばらく台湾で英語を使って仕事をしているので、日本語が少々怪しくなってきている。
「実は、お久しぶり、と打ったつもりがそうなったんだよ・・」
と僕が彼に打って返した、念のために。
「それはおかしいや」・・・と打つところを
「それはお怪異ね」
と返ってきた。
こういう二人ではチャットというツールはまったく役に立たないものだとあらためて理解させられた。

8月2日
少し風が吹いている。
その風に緑がざわざわ音を立てている。たまにはこういうBGMもいいものだと思った・・・・
と、そういう悠長なことを考えている場合ではなかった。
I平が森の中に足を踏み入れたまま帰ってこないのだ。まあそのうちに帰ってくるだろうと、塀にもたれて風の音に癒されていたわけだが、少し時間がかかり過ぎている。
蛇にかまれて倒れているのかもしれない、いやいやまさか高い擁壁からまっ逆さまに下に滑り落ちているのでは・・不吉な予感はするものの・・風がなぜか心地よい。

西宮の高級住宅街の現場に来ている。
いい雰囲気の建物が建っているもののそこには住人はいない。
スロープを上りつめたところにその建物は建っており、1階はコンクリートの打ち放しの倉庫でガラスが割れた状態のままになっている。
家の向こう側は鬱蒼と木々が生い茂っており、I平はそこから中にもぐりこんだまま出てこない。耳を澄ましても声も聞こえない。
「トトロ」に出て来るような環境に近い場所なので、ひょっとしたら真っ黒クロスケに連れて行かれたかもしれない・・・ま、いいか、そのときはそのときだよな・・・

「なにやってるんすかぁ・・・こっちへ来て見てもらえませんかね」
雑草の向こうからデジカメを抱えたI平の姿が見えた。
「かなりややっこしい擁壁になってるんで見てもらわないと困るんですけどね〜」
「適当に写真撮っといてよ、ここからじゃあ足が滑って危険だもんね」
「大丈夫ですよ。それよりあそこがちょっと・・・」
連れて行かれたわけじゃあなかった。
擁壁の調査に来ていたんだと、今更ながら気がついた。
朝から愛車のエアコンが再びきかなくなり、この現場に来るまでにすでに暑さでばててしまっていたので、調査どころではなかったのだが、そういう姿を見せるわけにはいかないのでこっそりとサボっていた、というわけである。

「体中やぶ蚊に刺されましたよ〜〜」
外の風のほうが涼しく感じる車の中で、ぽつりと彼はそう言った。

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